『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を絶対観たくなる!作画監督・浅野直之さんインタビュー!




浅野直之:アニメーター、キャラクターデザイナー。代表作に『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(作画監督)『おそ松さん』、『聖☆おにいさん』(キャラクターデザイン・作画監督)、『映像研には手を出すな!』(キャラクターデザイン)『ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜』、(総作画監督)ほか多数。

浅野直之さんとは、わたしが学生時代に関わらせていただいた文化庁主催のイベント企画『アニメミライ』でご一緒させていただいたことをきっかけに、その後もたびたびお仕事をさせてもらっています。


今回は、浅野直之さんが作画監督として制作に携わった日本の名作アニメ『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開を記念して、インタビューが実現しました。

浅野直之さんは、映画『ドラえもん』シリーズの総作画監督や、『おそ松さん』キャラクターデザインなど業界を牽引する国宝級アニメーターの一人です。


2020年には、キャラクターデザインをてがけた『映像研には手を出すな!』がニューヨークタイムズが選ぶベストテレビ番組2020年の1位、アメリカの大手アニメ配信サイトCrunchyrollが主催するベストアニメ2020の1位に選出されるなど、日本に留まらず海外からも支持されています。


 

今井みさこお久しぶりです!今日はインタビューを受けていただきありがとうございます。浅野さんとこうしてご一緒できることとても嬉しいです。


浅野直之こちらこそ、お声かけてもらって光栄です。


今井みさこ:2020年はアメリカでも浅野さんの名前をみかけました。浅野さんがキャラクターデザインをつとめた『映像研には手を出すな!』はアメリカですごい人気でしたね。


浅野直之:ありがたいことにアメリカでさまざまな賞をいただいて、驚きました。


今井みさこ:そして、いよいよ『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開となりましたね!めちゃめちゃ楽しみです。まず、作画監督としてお声がかかったときの心境からお聞かせください。


浅野直之中学生の頃にリアルタイムで見ていたのもあって、めちゃめちゃ嬉しかったです。カラーのスタッフさんにお声かけていただいた日のことを、今でも鮮明に覚えてますよ。


今井みさこ:エヴァンゲリオンは日本のアニメ作品の中でも注目度と期待値が高いですよね。プレッシャーみたいなものはありましたか?


浅野直之それがあまりなかったんですよ。これまで『おそ松さん』のキャラクターデザイン・作画監督をやらせていただいて、それ以降もありがたいことにそういったお仕事をいただいてきて、その度に成功させなければという気持ちが強くなり、それに伴う責任感をすごく重く感じていたんです。


エヴァンゲリオンは、当初原画としてはいってほしいというお話だったので、久しぶりに役職がないという責任感から開放されるぞ。のびのび原画を描くぞ〜。エヴァンゲリオンの大きな船の一船員として乗船するぞ。という気持ちでした。


けれども、制作を進めるなかで、プロデューサーさんから「作画監督としてやってほしい」といっていただいて、作画監督を務めることになったんです。僕自身、制作過程で野心も芽生え始めていたので、めちゃめちゃ嬉しかったですね。このスタッフに名前を連ねるんだ!って。

やっぱりテレビシリーズの作画監督をやるのと、エヴァンゲリオンの作画監督をやるのでは全然意味が違いますよね。


言うなれば、エヴァンゲリオンはアニメオリンピックの日本代表!自分も日本代表に選ばれたぞ(笑)という感覚でした。

今井みさこ:制作はどのように進みましたか?


浅野直之:まずは、先人たちが積み上げてきた過去のアーカイヴをみることからはじめました。これまでの日本代表が積み上げてきたものをきちんと吸収するつもりで。


アニメ制作はいつもスケジュールがキツキツ状態です。テレビシリーズは、毎週納品して半年間、目の前のことに手一杯で全力疾走して完成する感覚です。


一方エヴァンゲリオンは約2年間じっくり制作できました。久しぶりに一枚一枚丁寧に練習もしながら描くことができて、とても有意義でした。それは今回エヴァンゲリオンをやって楽しかったことの一つです。


ここまで予算と期間が与えてもらえるアニメ作品はとても少なくなりましたしね。

といいつつ、宿題をやらなかった小学生の夏休みみたいな感じで、最後はとっても忙しかったですけどね(笑)そういう忙しさも含めて、制作するのが楽しかったです。


今井みさこ:浅野さんが特にこだわったシーンはありますか?


浅野直之今回僕は「葛城ミサト」や「赤木リツコ」といったエヴァンゲリオンの中でもオトナの女性を描く機会が多かったです。彼女たちのオトナの色気や仕事に疲れた雰囲気をいかに出せるかにかなりこだわりましたね。エヴァンゲリオンはキャラクターたちがとても個性的で魅力的です。「碇シンジ」や「綾波レイ」「惣流・アスカ・ラングレー」といった若いみずみずしい感じとはまた違ったオトナたちの魅力をどう出すかを意識しました。


今井みさこ:そういったアイデアはどこからでてくるものなのですか?


浅野直之実生活で人を観察しているかもしれません。これはもう癖なんですけど、いろんな人の動きをすごく見ちゃうんです。印象的な仕草をした人とかはずっと覚えてる。そうしていると、過去の記憶に積み重なっていくんですよね。そして、どこかのタイミングでふっと思い出す。この体験をするたびにアニメーターが向いているんだなと感じます。


キャラクターの仕草がキャラクターの性格をつくりあげていきますよね。今回は彼女たちの仕草に注目してほしいです。

今井みさこ:制作する中でチャレンジングだったことは?


浅野直之:プラグスーツってピタッとした服を描くのはチャレンジングでしたね。さらに、プラグスーツを着てエヴァのコックピット(エントリープラグ)に乗っているシーンは特に苦労しました。やっぱりエヴァはメカが難しい。何気なく見ているあのシーンなんですけど、描いてみるとめちゃめちゃ難しいんですよ。信じられないくらいに複雑な構造なんです。筒状の乗り物で狭いうえに、トリガーのボタンも多くて。見ているときは気にならないですよね。いざ描くとなるとこんなにボタンあるの!?と驚かされます。


過去にエヴァに参加されてたアニメーターさんたちはこんな大変なのを描いていたんだ、と衝撃でした。今回は3Dモデリング参考を下敷きとして使えたので、やっと描けた感じでした。それでも1枚描くだけで相当な時間がかかりました。これがなかったとしたら1枚描くだけで数時間とかかかりそう。テレビシリーズ放送時は25年前ですよね。当時は3Dモデリングもなく、アニメーターが頭の中で設計して描いているのだと思うとスキルが全然違うなと感じます。今のアニメーターはだいぶ楽ができてますよね。


今井みさこ:YouTubeなどでいろんな映像が見れるからですか?


浅野直之:そうです。ネットに参考資料がたくさんありますよね。昔は自分の足で見に行く必要がありました。そういう面でも、先人たちが残してきたアニメ作品はすごいですよね。


その中でも印象的なのは『アルプスの少女ハイジ』ですね。もう45年前の作品です。当時は現地にロケハンをして、アルプスの情景を見たり感じたりすることであの作品がうまれた。写真もあったけど、今みたいに無限に撮れるわけではなかったはず。そんな中で、アルプスの情景を描いて、アルプスに住む人たちがこれはすばらしいというくらいの再現度がある。これは宮崎駿さんの天才性を表してますよね。


今井みさこ:たしかに。ハイジのあの風景や雰囲気はアルプスに行ったことがなくてもリアリティがありますね。わたしは大人になってからも見返してます。


浅野直之:『アルプスの少女ハイジ』や『赤毛のアン』、『世界名作劇場』は今になって、さらにすごさを感じます。自分はこれ描けないなって。


今井みさこ:わたしが覚えている宮崎駿さんの言葉で「アニメはだまし絵だ」というものがあります。現実をそのまま描くんじゃなくて、人の理想が混ざっている。アニメーターがどう見せたいかというフィルターを通して作画しているんですね。


浅野直之本物とは違うのに、みんなの記憶にこれだ!と思わせるのがアニメーションの魅力なんじゃないかな。アルプスに行ってその場で情景を描いてもそんないいものにならない。一回その人が記憶を取り込んでアウトプットしたときに、魅力的なものにできるかどうかがアニメーターの手腕なんでしょうね。


今井みさこ:今回だと、浅野さんがこれまでみてきたキャリアウーマンたちの姿を一旦取り込んで、アウトプットしたということですよね。


浅野直之そうかもしれないです。今回「葛城ミサト」や「赤木リツコ」のために人を観察して描いてみようとするとそれはいいものにならなかったと感じます。自分の中で抽象的な印象として変換されてから、アウトプットするほうがいいものになるのかも。


今井みさこ:制作時に一番やりがいを感じるのってどこでしょう?


浅野直之:自分は企画段階が一番おもしろい。誰も完成形がわからなくて、だんだん色がついて、動きがついていく過程がわくわくしますね。自分がイメージしていたものと完成形が違ったとしても、楽しいです。『おそ松さん』のキャラクターデザインに携わったときにそれを強く感じましたね。


今井みさこ:『おそ松さん』は大ヒットでしたよね。